ここ数年真夏になると、意識せずとも真夏らしい映画を選んで観てしまっている。夏なんだから夏の映画がかかっていて当然ではあるけど、その中でも夏の印象が強く残る作品を観ている。去年はそれが『aftersun』で、何気なく観たそれが2023年MYベストに入るくらいずしんと来た。
そしてここにきてギョーム・ブラック監督の『宝島』である。『宝島』で検索するとあまりにも有名なスティーヴンソンのものばかり出てくるが、それとは似ているようで趣が異なっている。ギョーム・ブラック作品は時の流れが緩やかで写実的で、その中に言語化できない込み上げる感情の描写があり、それがたぶん日本人の感覚にも合っているから日本でも人気が高いのだろう。
(C)bathysphere 2018
パリから約30kmのセルジー・ポントワーズにある「レジャー・アイランド」がこの映画の舞台だ。豊かな水源と緑の自然を利用したこの施設では、ウォータースキーやカヤック、ラフティングといった贅沢なウォーターアクティビティを堪能でき、ファミリー向けにも広々としたプールやウォータースライダーが用意されている。他にもテニスコートやクライミングコース、様々なゲーム、レストランなどがあり、老若男女が余裕を持って時を過ごせる場所だ。もちろん、この場所で何もしないでのんびりと過ごすことだってできる。これが日本の遊園地的な施設だと、ここまで多様なアクティビティを「余裕を持って」用意している施設は恐らくないように思う。どれも狭い敷地にきゅうきゅうと乗り物が設置されて、早く早くと急かされるように並んで過ごさないといけないからとても疲れるけど、「レジャー・アイランド」はそんな疲れとは無縁の、目を輝かせて楽しめる要素が詰まっている。
そんな「レジャー・アイランド」で、ギョーム・ブラック監督はどんな映画を撮ったのか。夏のレジャーといえば小さい子連れは賑やかに過ごして、小中学生だったら仲間内で遊んで、さらに年頃の独身だったら出会いのスポットでしかなく、全編にわたってそんな光景が繰り広げられている。あくまでもこの映画はドキュメンタリーということだが、こんなにも自然なやりとりが撮れるものなんだろうか。まるで登場人物たちのセリフが用意されてでもいるかのように、彼らはドラマを展開していく。
入場料をケチって金網の隙間から無断侵入する中学生たちをもれなく見つけ出す屈強な警備員のぼやきも、ナンパ待ちの女子たちがイケメンを手玉に取って取られてのやりとりも、きょうだいたちの何気ない会話も、どれもがみな交わされた瞬間にひとときの夏の思い出に変わっていく。誰かと交わした言葉は目の前から消えていくものなのに、あの夏の日差しと水しぶきが一緒だといつまでも心に残っていくのは何故だろうか。夏の景色と共に人生の記憶が増えていく、それはまさに「宝」なのだろう。たくさんの宝を得て、たくさんの愛を得て、夏がまたひとつ、ゆっくりと過ぎていく。
2024年7月27日日本公開 上映館はこちら。