めちゃくちゃ気になってて、でもなんとなくハズレだったらどうしようとか、予定合わないなとか余計なことばかり考えてしまって行くことをすっかり置き去りにしてしまっていた。だけどリバイバル映画館ですらもうすぐ上映終了ですよという告知が来た時に「いや、やっぱり、これは観ておかないといけないんじゃないか」という妙な胸のざわつきが始まった。そうやって夏休みに観に行った本作、控えめに言って魅了されまくった。
菜摘はアイスクリーム屋のバイトリーダー。時折やってきて必ずイタリアンミルクとペパーミントフラッシュのダブルをコーンで注文する、全身黒ずくめのミステリアスな女性・佐保に惹かれている。
菜摘と同じアイスクリーム屋で働く貴子は、エキセントリックなヘアスタイルで華麗なダンスを踊る後輩だ。
そしてアイスクリーム屋の近くの銭湯にいくのが心の癒しである優は、姪っ子を預かり複雑な心境に立たされている。
渋谷という街を舞台に、アイスクリームを取り巻く彼女たちの疾走が始まる。
主演にはニュートラルで好感度の高い吉岡里帆さんを起用し、そこと対極を成す形でモトーラ世理奈さん、音楽ユニット「水曜日のカンパネラ」のボーカル・詩羽さんにキャラクターづけをして、「渋谷における女子の王道と覇道」らしき世界を作り上たことが、幅広い女子にこの作品が受け入れられる要素なのだろう。
ストーリーとしては結構単純なんだけど、菜摘が佐保に抱く感情と、佐保がもたらす不均衡、そしてそれを眺める貴子のダンスのキレにもどことなく感じられる不安定さがある。どこに向かうかわからない、アイスクリーム屋を中心とした彼女たちの話の一方、アナザーストーリーとして展開される優たちの銭湯の話は、過去の自分をやり直して現在に修復していく。アナザーストーリーでの修復が進むからこそ、ふわふわとしたアイスクリームの彼女たちもそのまま走り続けることができるのだろう。
走り続けるというか動き続けるというか、渋谷の街を、時を忘れて疾走していく菜摘たちがまぶしい。この疾走感を映像や写真で出すことはとても難しいけど、片一方で収束していく話があるからこそ、疾走が生きてくる。
見た目は目一杯カッコつけて、舐められないように仕上げても心の中は不安だらけ。それでも甘く切ないものに惹かれる気持ちはどうしようもなく、そんな気持ちだって明日あるかどうかもわからない。自分で自分の気持ちが整理しきれなくて、佐保のようにいちいち投げ捨てたくなるような感情が湧き上がってくるのは、若さのせいだけなのだろうか。言葉では表しきれない曖昧模糊とした感情を映像で観て、改めて自己に投影して振り返ることもできた気がした。
とにかく全ての映像がカラフルでエモい。と思ったら監督はドラマやCM制作を手掛けるアートディレクター・千原徹也氏。そして撮影はフォトグラファー・今城純氏だからどうりで写真的な映像に仕上がるわけで。しかも企業コラボが至る所に出没しているから女子にウケるわけだ。原作は川上未映子著『愛の夢とか』収録の「アイスクリーム熱」。映画のパンフレットが完売だったので原作を買ってみた。短編なのですぐ読めそう。映画との違いをじっくり味わってみたい。そして自分の中の、走り去って行きたいような感情についても向き合ってみたくなった。