この世にコニー・アイランドという場所があることを知ったのがいつなのかは思い出せない。たぶんかなり昔に小説か何かの中に出てきて読んだことがきっかけのはずだけど、どれだったか忘れた。忘れてはいるけど初めて知ったことを覚えているということは、相当その描写が細かくて印象的たったはずである。1917年にできた、ブルックリンの南端にあるこの遊園地は、フォルムを見ただけでまだ行ったことがない人ですらも魅了してしまうような、心が躍るような風景だ。
どうしてそんなことを思い出したのかというと、映画『ブルー きみは大丈夫』の中にコニー・アイランドが出てきたから。ああ、そうだった、私は前からここに行きたいと思っていたんだった。夢見心地な乗り物の数々を見たら、昔の希望がよみがえってきたのだった。日本の遊園地だとどんなに楽しそうな、刺激的な乗り物があっても、どうしても「作った感」がついて回る。でもコニー・アイランドだけはそういう商売っ気を感じさせないような気がしている。まだ行ったことがないから、それも幻想なのかもしれないが。
幼い頃に母親を亡くした13歳の少女ビー(ケイリー・フレミング)は、ある日、おばあちゃんの家で、子供にしか見えない不思議な“もふもふ”ブルーと出会う。ブルーが友達だった子供は、今は大人になり彼の事を忘れてしまい、居場所が無くなったブルーは、もうすぐ消えてしまう運命に。少女は、大人だけどブルーが見える隣人の男(ライアン・レイノルズ)の力を借り、ブルーの新しいパートナーになってくれる子供を探すのだった。(映画『ブルー きみは大丈夫』公式サイトより)
子どもの頃は頭の中でいろんなことを考えていたし、いろんなものが好きだった。物語みたいなこととかも毎日書いたり、小学校に登校する時に一緒になる友達に話して聞かせたり。それから自分だけのお気に入りもたくさんいた。TVの子ども番組のおねえさんは絶対的に優しかったし、少女マンガのヒロインも好きなアイドルも自分だけの味方だった。
大人から見ると笑っちゃうようなことを大真面目に信じていてやっていたのに、いつからそういうことをしなくなったのだろう。いつの間にかアイドルのプロマイドは捨てちゃったし、子ども番組なんて見るわけないじゃん。もう子どもじゃないからと思った瞬間から、それまでの自分を支えていたものはいらなくなる。そんなものはダサい、なくてももう大丈夫。大概の人はそれっきり忘れる。自分が子どもであったことを。
そうして大人になって生きていって社会の壁にぶち当たり、運命に負けそうになったときに、何が支えになるのだろうか。家族なのか同僚なのか友人なのかパートナーなのか、でも実はそのどれも頼りにならないことの方が多い。自分1人で問題を解決しなければならないしんどさに耐えるのが大人だけど、時にそのしんどさを和らげてくれるような存在があってくれたらと思ったことはないだろうか。
映画『ブルー きみは大丈夫』には数多くのパートナーが登場する。小さい頃にはヒーローだったのに、成長と共にいとも簡単に記憶から忘れ去られてしまったパートナーたちが誰しもいたはず。大昔に自分が何を好きだったかなんて、思い出せないかもしれないけど、同じ時を共有した存在がいたことを忘れたくはない。そして何かを支えにした自分のことも少しだけ愛おしく思って、また生きていくことができるのだろう。